「うっそ…。これが沖縄の海なの………」
初めて沖縄に行った時、現地の知人にオススメと聞き、沖縄本島のとあるビーチで泳いだ時は腰が抜けるほど驚いた。海はそれほどきれいじゃないし、ロープで囲まれた狭い中をまるで池で飼われている鯉のようにむなしく泳ぐしかなかった…。これが沖縄の海なのか…。やるせない思いでビーチを後にした。
その後、何度か沖縄本島に行く内に理由が分かった。沖縄の人にとって海は泳ぐ場所ではない。ビーチパーティー(バーベキュー)や、ただボーっと車の中から眺める場所。そして沖縄の人は泳げない人がものすごく多い事実も知った。本土に住んでいる人とは海の捉え方が全く違うのだ。そう、海は泳ぐところではなく見るところ。それが沖縄の人にとっての海なのだ。もちろん海人(うみんちゅ)は別格ですが…。
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初めての沖縄から約2年。石垣島の離島桟橋から高速船に乗りわずか10分。竹富島にやって来た。1月だがTシャツ1枚でいいどころか汗まで噴き出してくる陽気。冬なのに夏。竹富島はかつて八重山諸島全体を統括する行政府があった場所でもある。
その竹富島にコンドイビーチという美しいビーチがあることをガイドブックで知った。港でズラズラ待っていたレンタルサイクル店の送迎車に乗り集落へ5分程走る。自転車を借りたのは丸八レンタルサイクル。オレンジ色のママチャリに乗り、白い砂地を子供のように立ちこぎで走り出す。
そのまま今宵の宿「新田荘」へ寄ると、
「あら…船の時間を言ってくれてたら港へ迎えに行きましたのに…」
と言われた…。おまけにレンタルサイクルもやっており、宿泊客は半額だということも…。まぁいっか。(笑)
荷物だけ置き、集落の中央にそびえる不思議な形の展望台「なごみの塔」に行った。やわらかな響きの名前とは裏腹に恐ろしく狭く急な階段を上がると赤瓦屋根の伝統的な街並みが一望できた。白い砂地と赤瓦屋根のコントラストがなんともいい感じ。しかし、この塔はまったくなごめない。軽い高所恐怖症の僕には恐怖の塔であった…。
三線の音が聞こえる先に水牛車の姿。ユッサユッサとこっちへ向かって歩いて来る。水牛車を操るおじさんの手には三線。しゃがれた声で喜納昌吉の「花」を歌っていた。あまり上手ではなかったが味はあった。(笑)
昼ごはんは八重山そば屋の「竹の子」へ。青い空をバックになんとも雰囲気のある建物。店に入ると、芸能人のサイン色紙が並ぶ。畳の小上がりに座り、オリオンビールと八重山そば(500円)を注文。キンキンに冷えたオリオンビールをゴクゴクと豪快に飲む。うまさ爆発!なんなんだこのうまさは…。
そして八重山そば。中太の丸麺をすする。うまい…。スープもダシのカツオの風味がちょうど良くいい感じ。ピィヤーシというコショウ科の植物から作った香辛料を少しまぶすとまたさらに風味が増してうまかった。当然、スープも一滴残さず完食。ふぅー。
店を出るとさらに暑さは増していた。これは東京の8月。自転車にまたがり、コンドイビーチへ向かう。ビーチへ向かう一本道にはピンク色のハイビスカスが咲き乱れる。静寂に包まれたその小道でジーンズに白いTシャツを着た一人の若い女性とすれ違いドキッ!ずいぶんときれいな人だったが、この暑さの中を歩くのはちょっと危険に感じた…。まあ、しかし、それについて話しかけることは余計なお世話であった。
集落から約10分。コンドイビーチを示す木の看板があり、緑のトンネルを抜けた先に信じられない風景が待っていた。
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
これはすごい…。
自転車を投げ出してそのまま砂浜へ駆け出した。真っ白な砂浜に、透明度の高い遠浅の青い海がドッカーンと広がっている。これ!これ!これぞ沖縄の海だよ!
あまりにも美しい風景にどうしていいか分からない程だった。
水着に着替え海に飛びこんだ。きもちいい…。海の中も素晴らしくきれいでカラフルな小さな魚がユラユラ泳いでいた。仰向けになりプカーッと浮かぶと、真っ青な空が一面に広がっていた。さいこー。
季節外れなので、広いビーチには10人ほどしかいなく贅沢な空間だった。この日はたまたま暑かったがいつもそうとうは限らない。(僕自身もその後2回冬の竹富島に来たが、2回とも曇りな上、ひどく寒かった)
コンドイビーチの隣にある星砂が拾えると聞いたカイジ浜にも寄ってみたが、残念ながら星砂は見つけられなかった。まぁ、それほど見つける気もなかったのだが…。星砂の正体は実は珊瑚礁に棲む有孔虫の死骸。ほんとに星のような形をしたものなのだが、取り過ぎてしまい、ほとんど無くなってしまったらしい…。小柳ルミ子さんの「星の砂」でも知られる場所。砂浜のそばにある小さな特設のみやげ屋で小瓶につめられ売っていたが、買うのもどうかなぁと思い、カイジ浜を後にした。
集落に戻ると、かなり人が少なくなっており静かであった。竹富島を出る最終の高速船が夕方の6時前だからだ。昼は観光の島らしく賑やかだが、夕方にもなると本来の島時間がゆたーっと、流れている。宿に戻り、シャワーを浴びた。軒先の畳の小上がりでゆんたく(井戸端会議みたいなもの)をしている人達がいたので、少しだけ混ぜてもらった。夕暮れ時のやわらかい風が気持ちよかった。
晩ごはんはつけていなかったので、白い砂地をジャリジャリ歩きながら、行き当たりバッタリでどこかの店に入ってみることにした。と言ってもそれほど選択肢はない。白い瓦屋根の実に雰囲気のいい島料理屋さんを見つけそこにした。「しんめぇなぁび」という変わった名前の島料理屋で、広々とした店内には島唄が流れていた。
まずは、風呂上りのオリオンビールをジョッキで頂く。うま過ぎ…。そして初めて食べたジーマーミ豆腐が抜群に旨かった。落花生を原料に作った豆腐で、まろやかでねばりがあり酒のつまみに最高。その後も定番のグルクンの唐揚やフーチャンプルーを頂きながら、竹富島の夜をゆるゆる楽しんだ。
砂地を歩きながら宿へ歩いて帰っていると、どこからか三線の音が聞こえてきた。ここは美しくてホントに幸せな時間が流れる島だ。そして竹富島の良さはこうして実際に泊まらないと分からないかもしれない…。
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竹富島は実は車エビの養殖も盛ん。いつか見た読売新聞の記事で知ったのだが「竹富エビ養殖」という会社がある。起業の理由が「雇用の場を作って島の人口を増やし、祭りを守るため」と書かれていた。祭りを守るため…。東京に住む僕には到底理解できないが、島の人にとって祭り(種子取祭)はそれくらい大切なことなのだ。
さて、その養殖の車エビ。もちろん竹富島でも食べられる。「やらぼ」という食堂の「エビ入り野菜そば(1,200円)」がそうだ。翌日、新田荘で借りた自転車で寄ってみると見事に休みであった…。
仕方なく、集落内の自動販売機で缶のオリオンビールを買い自転車のカゴに入れ西桟橋へ向かった。カゴの中で缶ビールがゴロンゴロンと踊っている…。西桟橋の砂浜に流れ着いた流木に座り、ちょっとぬるくなったビールを開けるとプシューっと、泡が吹きだした。海を見ながらゆっくりそれを飲む。許されるなら、このままもう一泊したくなった。もちろん許されないのだが…。
(06年1月:旅々旅人) |
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