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2歳になったばかりの息子と家族三人で夏の北海道は「函館」の旅に出かけた。実は、息子は飛行機デビュー戦…。しかし親の心配を他所に息子は、それほど耳鳴りにも過度な反応を示さず、空を飛んでいることにも気づかず、無事に函館空港へ着いたのでした。
天気は、スカッと晴れ。時計の針は昼の12時を少し回ったところ。すぐにでも函館の市場でピチピチの海鮮丼を食べたかったが、子供がいるとそうはいかない…。ここはグッと我慢をして、空港内のレストランで北海道限定ビールのサッポロクラシックの中ジョッキと北海道らしくないが失敗もないであろうカツカレーをガッツリ食った。ビール片手に昼間からいい感じ。
函館空港からタクシーに乗り、今宵の宿の函館駅前のホテルを目指した。
「左に見えるのが津軽海峡ですよ」
と、運転手さん。
「あの津軽海峡ですか…」
石川さゆりさんが歌う「津軽海峡冬景色」の影響で、なんだか妙にドキドキした。いい歌だよなぁ。実は子供の頃から好きな歌だったが、当時は恥ずかしくてそれを隠していた。(笑)
この日は真夏の8月。津軽海峡には青い海に大きな白いカモメ。カラフルなパラグライダーがゆらゆらと空を舞う、なんとも楽しい津軽海峡夏景色であった。
空港から約15分でホテルに着いた。9階の部屋の窓からは近代的なデザインの函館駅と大きな函館湾が見える。電車好きの息子は、「でんしゃ!でんしゃ!」と、興奮しっぱなし…。しかし電車ではなくまたタクシーに乗り込み函館ハリストス正教会を上から見下ろせるチャチャ通りの上で降ろしてもらった。チャチャ通りのチャチャとは、アイヌ語でおじいさんという意味で、急な坂道をおじいさんのように腰を曲げて歩く感じからそう名付けられたと聞いた。ほんとに…?(笑)
チャチャ通りにはサラッとした気持ちのいい風が吹き抜けていた。眼下には、函館の名所である函館ハリストス正教会の美しい姿。その向こうには函館の街並み、そして函館の海と青い空が広がっている。絵に描いたような美しい港街の風景に、一気に心が開放された。
函館ハリストス正教会は、1859年に初代ロシア領事館の付属聖堂として建てられたビザンチン建築の傑作と言われる教会だそうな。チャチャ通りを下り教会へ行くと観光客で溢れかえっていた。みんなキリスト教なのかしら…。
教会の先にあるのが映画やCM(チャーミーグリーンなど)などの舞台にもなった八幡坂(はちまんざか)。グィ〜ンと真っ直ぐ一直線に伸びる坂道は、そのまま青い海まで続いていた。
「いいね〜この景色!」
と、妻の声。
サラサラと、ときどき気持ちのいい風が吹く。その度に息子は顔を突き出し風を感じていた。この八幡坂も下ったため、それほど急な感じはしなかったが、下から上がってくる人は、ヒーヒー言ってた。どうやら上から下へ向かうのが函館の正しい観光スタイルらしい。タクシーで坂の上まで来て良かった。
港には、船着場に沿って赤レンガ倉庫が続いていた。休憩がてら海が見えるBlue Moon Cafeでホットコーヒーを飲んでいると、白い観光船がちょうど港を離れていくとこで、ポッポー!と汽笛を鳴らしながら、どこへやら向かっていった。
赤レンガ倉庫そばの通りでは札幌ヨサコイソーラン祭りではなく、函館ヨサコイソーラン祭りなるものが行われていたが、いまひとつ盛り上がりにかけていた…。赤レンガ倉庫群から市電の駅「十字街」まで歩き、一両編成の市電に乗り込んだ。
ガタゴト揺られながら函館の風景がゆっくり流れていく。思ったより、素朴な感じの街並み。決して都会とは思えないこの街並みが写真で見たあの夜景の舞台になるかと思うと、かなり意外に思えた。あてもなく乗ったのだが、路線図にあった「五稜郭公園前」という駅が気になり、そこで降りた。
すぐに五稜郭公園があるだろうと思いきや、結構な距離でまいった。寒さには強いが暑さには弱い二歳の息子もいるのでさすがに途中で引き返そうと思ったところ、ふと見えた路地の向こうに大きなタワーがズッコーンと空に向かって伸びていた。あそこからなら見えるだろうと思い、そこへ行くと、なんとその名も「五稜郭タワー」だった…。
ガラス張りの展望台からはかつての箱館戦争の最後の砦となった星型の五稜郭公園の全体を見渡すことができた。そして気づいた。この公園はこうして上から見るべきだと…。
ホテルへ戻りひと風呂浴びた後、たそがれどきの函館朝市へ向かった。朝市だけにほとんどの店は閉まっており恐ろしく寂しい。入ったのはその一角にある「うにむらかみ」というウニとカニ料理の専門店。店内に入ると、席が空くのを待つ客で溢れていた。客席の前に置かれた大きな水槽の中には毛ガニがワサワサ動いている。
念のため予約をしていたので、そのまま畳の小上がりに案内された。早速生ビールをグビグビ。うまい…。メニューからホタテとイクラとウニがのった三色丼を頼んだ。妻は、息子も食べられるよう、鮭親子丼。程よい時間で三色丼が現れた。そしてゆっくりと味わう。旨い…。さすが北海道だ。特に旬のウニが最高だった。
時計を見ると7時過ぎ。8月の函館の日没が7時前なので夜景を見るにはちょうどいい時間。函館駅前に並んでいるタクシーに乗り込み函館山(標高334m)へクネクネと山道を走る。最初のポイントらしき所でとまった。
「ほらっ!きれいでしょ」と、運転手のおとうさん。
「おお!きれいですねー」
「でも、ここより、頂上から見る方がもっときれいですから。宝石箱みたいですよ」と、真っ黒に日焼けした顔でロマンチックなことを言っている。すると今度は海の方を指し、
「あそこ、海に光が見えるでしょ。あれはいさり火で、イカを獲ってるんですよ。昔はカニも獲れたんですが…、今はみんなイカですよ。せっかく函館に来たんだからイカ食べていってくださいね」
と、まあ、いろいろな話をして盛り上がった。
頂上はものすごい人で大変な状態だったがなんとか最前列まで辿り着いた。そこから見渡す風景はホントに宝石箱のようだった。シュッとくびれた独特な街の形が一層夜景を美しく魅せている。昼間に歩いたり、市電に揺られながら見てきた所が、上からでもよく分かり楽しかった。香港、ナポリと並んで世界三大夜景と言われているが、日本三景よろしくその確かな根拠はわからない…。(笑)
函館山を降りた後、運転手のおとうさんは、旧函館公会堂やイギリス領事館などを回ってくれ最後に昼間にも来た赤レンガ倉庫群のある港に連れて来てくれた。そこには、まるでクリスマスのようなネオンがキラキラと輝いていた。上から見て最も明るい場所がこの辺り。
ホテルに着くまで、運転手のおとうさんは休みの日に孫と一緒に素潜りでウニやホヤを獲ったり、青森までソフトボールの遠征に行くがそこへ向かう船の中で既にベロベロになり試合どころではなくなる話などをニコニコ顔でしてくれた。そのまま別れるのが少し寂しいくらいだった。会社名とお名前をメモっておけばよかった…。
函館はかつて(昭和9年に起きた大火災以前)は北海道一の繁華街であったが、今では人口約30万人(札幌は約185万人)と決して多くはない。市民と企業がみんなで協力してこそ見られる夜景であることを知った。函館市民の方の粋なプレゼントは、毎日夜の10時まで続くそうだ。
(06年8月:旅々旅人) |
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