季節は冬の1月だが、まるで真夏のような石垣島からフェリーに乗り西表島の大原港に着いた。ついに西表島にやって来たんだ。嬉しいー。しかし…、天気は今にも雨が降ってきそうなどんよりとした曇り空。おまけにさむい…。石垣島から船でわずか35分程しか離れていないのにこの差は一体なんなんだ…?風邪対策に港近くの売店で恥ずかしいけど、背中に「島人」と書かれた土産用のTシャツを買い、着ていたTシャツの上に重ねて着た。ま、それしかなかったのだ。着ないよりはマシだろう。
西表島は島の約90%が原生林に覆われ、約300mから400m級の山が6つもある。それらが雲を作り頻繁に雨をふらせるというわけだ。だから西表島は屋久島と同じように雨が多い"雨の島"なのだ。そう分かっていてもやはり旅の途中の雨はあまり好きになれない…。(笑)
港から歩いて5分程の所にあるヤマネコレンタカーという名のレンタカー屋で車を借りた。車種は忘れた。ナビは当然のようについていなかった。必要がないくらい道路がシンプルなことを後で知ることに…。そこからすぐの所にある子供の学習用に作られた日本最南端の信号が青に変わる。それが合図かのように西表島の旅が始まった。向かったのは水牛で浅瀬を渡れるあの由布島。西表島を長距離移動できる道は1本。最南端の南風見田の浜あたりからぐるりと海沿いの地形をなぞるように白浜という集落まで伸びている。1周はできない。
サトウキビ畑を抜けると大きな仲間川に架かる仲間橋に出た。日本とは思えないジャングル。少しスピードを落してその風景を楽しんだ。橋を渡るとまたスピードをあげた。途中、「イリオモテヤマネコ とびだし注意」という看板が何度か見えた。絶滅危機であるイリオモテヤマネコが100匹ほど生息していると聞いたが夜行性なので島の人でも見たことがある人は少ないらしい。写真で見る限りふつうのネコだが…。
しばらく進むとまた大きな川が助手席の向こうに見えた。うわぁぁぁ…これまたすごい…。前良川(まいらがわ)というらしく優雅な姿で海へ向かって流れていた。川沿いにはマングローブの林が広がっている。橋と道路以外に人工的なものがないのがまたすばらしい…。
そこから約5分で由布島へ渡る水牛乗り場へ着いた。指示された水牛車へ乗るとよく日焼けしたおばあちゃんがニコニコ顔で迎えてくれた。手には三線。10人ぐらい乗り、水牛のお尻をポンと叩くとゆっくり由布島へ歩き始めた。同時におばあちゃんが三線を弾きながら島唄を歌い始めた。寒くなければ最高にいい時間だったが、震えるくらい寒かった…。うー、ブルブルブル…。
由布島は、植物園のような島だった。オオタニワタリ、ハイビスカス、ブーゲンビリアなどの亜熱帯植物が印象に残る。島にあるみやげ屋も兼ねた大きな食堂で八重山そばをズルズルすすった。そばと言っても小麦粉を使ったうどんのような丸い細麺。あっさりした味わいでうまかった。
水牛車に乗りユサユサ西表島に戻った。浅瀬なので歩いて渡る人の姿も。車に戻り次は、浦内川の遊覧船乗り場へ向かう。片側1車線の道でほとんど信号もないせいか地元の車やどこかの送迎用のマイクロバスがものすごいスピードであおってくる。ひえー。こっちも20キロオーバーなのに…。結局3度も道を譲った。石垣島とはえらく違う。あそこはのんびりだったのになぁ。本土からの移住者が多いのだろうかぁ…。
浦内川の遊覧船乗り場へは約40分程で着いた。浦内川観光が運営しており、遊覧船の他、カヌーツアーやエコツアーなどにも参加できる。カヌーは石垣島でやったことがあったので日本百選の滝にも選ばれた「マリュドゥの滝」へも行ける「浦内川ジャングルクルーズ(1,500円)」にした。遊覧船はゆっくりと、そして時々とまってマングローブなどのガイドもありながら約8キロ先の船着場(軍艦岩)へ30分程で着いた。
船着場からはガイドはないらしい。帰りの時間を知らされそれまでに戻るように言われた。ジャングルの中と言っても約1メートル幅ぐらいの山道がちゃんとあり、そこをひたすら歩いていく。しかし、なかなか滝らしいものは見えてこない…。まさに登山のように汗だく。そして船着場から約30分程でマリュドゥの滝が遠くから見渡せるマリュドゥの滝展望台へ辿り着いた。吹き抜ける風がきもちよかった。
しかしこの場所だとまだ滝まで遠く実感が沸かない…。さらに進むと滝の音が大きく聞こえてきた。おぉぉ!ついに滝まできたか!と急ぎ足で進むと入口らしき場所に黄色い帯のようなものがあり、立ち入り禁止と書かれていた…。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇー!!!」
ここまで来てそりゃないっしょ…。ちゃんとガイドブックには滝の目の前まで降りられると書いてある。事故があったのだろか…。(後で死者がでた話を聞いた)うーん。自己責任だが行こうと、その帯をくぐった。
ゴォォォォォォォォォォー!と、ものすごい音が聞こえてきた。
家族もいるのでここで死ぬわけにはいかない…。念のため靴も靴下も脱ぎ、濡れた岩場を猛烈に注意しながら歩き、滝を間近で見下ろせる位置まで辿り着いた。おぉぉぉぉ!すごい!幅約20mで落差約16mのダイナミックな風景が待っていた。苦労した分感動も大きかった。この滝はここから見ないとホントの良さは分からないでしょ…。あの展望台から見ただけではダメ…。
そこからさらに10分程歩いた先にもう一つの滝「カンピレーの滝」があった。こちらは垂直にズドンと流れ落ちる滝ではなく何段もの岩場を流れていく滝で実に美しかった。カンピレーは、「神々が座るところ」という意味らしい。船着場から山道を歩いて約50分。ここまで来てホントに良かった。ものすごく気持ちのいい達成感と満足感に包まれた。
来た道をそのまま戻った。誰もいないので雨上がりの土道を歩いてひどく汚れた靴とジーンズを川で洗った。約束の時間まで見事に何もすることがないので船がくるまで船着場の岩場でゴロンと仰向けになり目を閉じた。せせらぎと風の音だけが聞こえてきた。
***
実は西表島には温泉がある。日本最南端の温泉「西表島温泉」。沖縄の温泉ってちょっとイメージしにくいが沖縄本島にもいくつかある。全国47都道府県で温泉の出ない所はないし、温泉施設がない所もない。しかし沖縄の人は温泉どころかあまり湯舟にもつからないと、沖縄の人に聞いたことがある。シャワーがメインだとか…。浦内川の遊覧船乗り場から35分程で西表島温泉に着いた。
ネイチャーホテルパイヌヤマリゾートというリゾートホテルとも併設しているらしく意外と近代的な建物で驚いた。値段は1,200円。内風呂と露天風呂スペースに分かれており、露店風呂スペースは混浴で水着着用になっている。水着を着て露天風呂のあるスペースに出る。うぅぅぅぅ…寒い…。西表島=亜熱帯というイメージは、この時点ではっきりと消えた。
建物以外は緑のジャングル。長方形や岩風呂などいくつかの風呂があった。先客で三人の女性がいたがあまり気にせず、まずは一番大きなやまねこの湯につかった。あぁぁぁぁ…きもちいい…。湯のぬくもりに身体がゆるゆるほどけていった。無色透明の湯なので温泉らしさはあまり感じないが、西表島ならではの景観が楽しめ素晴らしかった。
しかし水着で温泉に入るのはプールみたいで好きじゃないので露天風呂はほどほどにして内湯へ戻った。内湯の横にも小さな露天風呂がありそこに入ったのだが、一人でゆったりくつろげた。
風呂上りのビールを我慢し約20分かけて上原という集落内にある民宿「カンピラ荘」に着いた。恐ろしく長い20分だった。(笑)沖縄の離島の民宿のご飯は郷土料理ではなく一般的な家庭料理がごく普通の味で出ることが多いので、晩ご飯はあらかじめキャンセルしておいた。そしてぶらぶら歩きながら新八食堂と言うそばが人気の小さな食堂に入った。
テーブル席に座り、まずは待ちに待った生ビールをグビグビ流し込む、くぅーうまい……!あれだけ歩いて温泉にもつかりその間何も飲み食いしてないわけだから、うまくないわけがない。さいこー。一気に飲み干し二杯目に突入したところで壁に貼られたメニューを見る。そこにイノシシチャンプルー(1000円)とあった。イノシシ?ほっほー!聞くと、西表島の猪猟解禁期間が11月中旬〜2月中旬。1月のこの日は、まさにイノシシが食べられる日というわけだ。もちろん注文。
間もなくしてホワホワの湯気と一緒にイノシシがプルルンと現れた。これがイノシシか…。食ってみると、アツアツプリプリでなかなか旨い。一緒に炒められたキャベツやピーマンなどの野菜の甘味も結構効いてる。味といい食感といい少し羊にも似ている。後から入ってきた3人客は、なんとイノシシの刺し身をやってた…。そ、それはさすがにちょっと…。
その後南国の海を泳いでいたらしく弾力のあるマグロの刺し身を食べ、最後に野菜ソーキそば(900円)を食べたがこれまた抜群にうまい。その名の通り野菜がいっぱい。麺は平たくやや固め。野菜の甘味がスープにたっぷり染み込んでいて、パンチがありうまかった。
満腹になって外に出ると真っ暗な夜が広がっていた。空も曇っているらしく星も見えない。遊ぶところもさすがに西表島にはない。おとなしく宿に帰り、かなり早い時間に和室に自分でひいたふとんにゴロンとなった。しばらくして激しい雨の音が聞こえてきた。雨はそのまま朝まで降り続いた。
(05年1月:旅々旅人) |
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