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錦帯橋の存在を知ったのは、たしか羽田空港の待合ロビーで見ていたテレビ。そうそう外国の人に向けた日本のCMだったと思う。そこへ出てくるいくつかの観光名所や食べ物、お祭りはどれも有名なものばかりだったが、満開の桜越しにアーチを描きながら連なる美しい橋だけは初めてみるものだった。はてと、あの存在感のある美しい橋は一体どこの何という橋なのか…。後日、山口県は岩国市にある錦帯橋(きんたいきょう)と知った。
錦帯橋へは、いつかテレビで見たように桜のきれいな季節に行きたいと思っていたが、12月にお隣の広島へ来たついでに足を伸ばしてみることにした。電車の最寄り駅はJR岩国駅。駅を出たところに錦帯橋行きのバスがエンジンをかけたままとまっていた。そして5分も経たないうちに走り出した。
ふと、バスの車内吊り広告を見ると「ようこそ宇野千代の世界へ!」とデカデカとある。うん?どこかで聞いたことがある名前。その広告を見ると、岩国出身の小説家で『おはん』、『色ざんげ』などの著書があり、着物のデザイナーとしても活躍された方らしい。まあ僕の場合、岩国と言えば漫画「課長島耕作」を描いた弘兼憲史さんかな…。岩国では島耕作バスも走っているらしい…。
乗客は、親子の二人組みと若い女性の二人組み。そして旅では珍しく若い男の三人組。バスの乗客はみな、錦帯橋へ行くらしい。そんなような会話が聞こえてくるからだ。男の三人組は会社の同僚らしく錦帯橋の話の後はずっと愚痴大会を繰り広げていた(笑)。終点のバス停「錦帯橋」へ着いたのは、約20分後。
そのまま川岸へ歩くといきなり錦帯橋がバシャーンと現れた。うつくしい…。木造の5連の橋が美しくアーチを描いている。長さが約210メートルもあるらしく迫力がある。そして橋の奥にそびえる城山山頂には岩国城の姿も小さく見える。よーし!橋を渡って城まで行くとするか。
橋の入り口で往復300円のチケットを買い、幅約5メートルの橋を歩き始める。五連のアーチ形の橋を、上がったり下ったりしながら歩くのだが…、下る時はいきなり低く長い段差の階段が現れ、僕は気がつかず、ガクッ…。めずらしい構造の橋なのだ。
初代の橋は、1673年当時の岩国藩主「吉川広嘉(きっかわひろよし)公」により創建された。2度の洪水によりなんと流出までしてしまったらしいが、2004年3月に現3代目錦帯橋の架け替え工事が完成したと聞いた。元々は古い橋なのだが、現在の橋はできたてホヤホヤ。錦帯橋の下を流れる錦川では、毎年6月31日〜8月31日に鵜を操りながら鮎を捕まえる伝統漁、鵜飼(うかい)も行われている。
橋を渡った先には、かつての武家屋敷の姿も残っている。そのままブラブラ歩いていくといつの間にか噴水などがある吉香公園という公園内に入っており、その公園の奥に岩国城へ登るロープウェー乗り場があった。往復540円のチケットを買いすでに乗客でいっぱいの小さなゴンドラに乗り込んだ。
わずか約3分。人口約15万人が住む岩国の風景が徐々に広がっていった。ロープウェー乗り場から山道を8分程歩いた先に岩国城が堂々たる姿であった。なかなか美しい。
中は思ったより狭く感じたが、当時の武具などがズラリと展示されており、多くの方がまるで西洋の著名な画家の絵画を見るかのように熱心に列を作り見て回っていた。
そして、小さな天守閣のてっぺんから見える風景が実に素晴らしかった。水量は少ないが大きな錦川が今津川と門前川に分かれグィーンと弧を描きながら瀬戸内海へ流れている。その周辺に作られてきたそれぞれの街並み、それらを取り囲む低い山並のある風景がなんともいい。米軍の岩国基地までも見えてしまうが…。
岩国城(別名横山城)は、1608年に岩国初代領主吉川広家(きっかわひろいえ)公によって創建されたが、1615年の一国一城令により取り壊されてしまった。現在の城は、1962年に再建されたもので4層4階の鉄筋コンクリート製。城風の博物館である。ちなみに歌手の吉川晃司さんは、その名の通り吉川家の子孫にあたるらしい。
ロープウェーで降り、再び錦帯橋を渡った。さてさて岩国の名物と言えば岩国寿司。バス停の錦帯橋の近くに錦帯館というみやげ屋があり、店頭でショーケースに入れられた岩国寿司の姿を見つけた。笹で包まれた平たい押し寿司が2個で1セット。値段は、1050円とやや高い。1個で半額にならないかダメ元でお店の人に聞いてみたが、やはりダメだった…。まあしょうがない。(笑)
店の奥にある食堂でも食べられるが、せっかくなので錦帯橋を見ながら川べりで頂くことにした。蓋を取ると、プーンと笹の葉の香りを感じる。笹をめくると、酢飯の上に錦糸卵(薄焼き卵を細切りにしたもの)、桜でんぶ(白身魚をほぐしたもの)、椎茸、海老がのった押し寿司が現れた。
失礼ながら見た目からはそれほど食は刺激されない…。どれどれと一口食べてみる。うまい…。酢が程よく利いており、椎茸の風味が全体をいい感じで盛り上げている。錦糸卵と桜でんぶのウマ味も絡み箸が進む。あっという間に平らげてしまった。
かつて岩国城への登城の際に持参したことから「殿様寿司」とも呼ばれているそうな。また機会があれば今度は弁当ではなく、ちゃんと専門の店で作りたてを食べてみたい。好きな味わい。
再びバスに乗り岩国駅へ戻った。夕方になり寒さが増してきたのでダウンジャケットの首のあたりをピッチリ締める。うーさむい…。ホームは一段と寒い風が吹きぬけていく。20分程ホームで待ち、各駅停車のJR山陽本線に乗り込んだ。
岩国駅を出た電車の窓から夕暮れに染まる町並みや海が見える風景に旅気分がさらに高まった。
(06年12月:旅々旅人) |
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