家族旅。北陸2日目の朝は、前日同様天気予報に反して申し分のない晴れ。2歳の息子も妻も妻のおかあさんもみんな嬉しそう。天気予報がいい形でハズレると笑っちゃうくらい嬉しい。加賀温泉郷の山代温泉を後にし加賀温泉駅からサンダーバードに乗り込むと30分弱で金沢駅に着いた。
時計を見ると10時30分。金沢は結婚前の妻と来て以来2度目だが駅前がなんだか騒々しく変化していた。タクシーで金沢城公園のそばにある白鳥路ホテルへ向かう。このホテルは金沢市の繁華街ではめずらしい天然温泉のあるホテル。温泉好きのおばあちゃんのためにここに決めたのだ。
大正ロマンを感じさせるハイカラなロビーがなんだかいい感じ。紅茶を片手に静かに読書を楽しみたくなる空間だ。チェックインにはまだ早いので荷物だけ預けぶらぶら歩きながらまずは近江町市場へ向かった。近江町市場は加賀100万石の城下町を支えてきた市場で、今も市民の台所として賑わっている。前田利家が入城して約3年後の1721年に各地にあった市場を集めたのが今の近江町市場の始まりと聞いた。
この日はとろけそうな程の真夏日。店が軒を連ねる通りの所々に大きな氷が置かれており子供たちが冷や冷や楽しんでいた。近江町市場には金沢漁港をはじめ日本各地、世界からも魚が集まってくるらしい。ズワイガニ、毛ガニ、金目鯛、岩ガキなどがガシガシ並んでいた。
途中、約50メートルくらい続く長い行列に出くわす。なんだなんだと先頭まで行くと、うなぎ屋であった。土用の丑(うし)の日を前にうなぎを買い求める地元客らしいが…、その店の向かいもうなぎ屋であり、旨そうに焼けたうなぎが、なんだかちょっとさみしく見えた。
昼ご飯は、近江町市場内でピチピチの海鮮丼を食べたかったが、2歳の子供のご飯にならないため、あきらめた。市場近くにあるうどん屋の「加登長総本店」に入った。ビールと一緒に、暑い中、アツアツのあんかけうどんという珍しいうどんをハフハフ食べた。やわらかい中太丸麺でなんとも新しい味だった。妻が頼んだ定食についていた郷土料理の治部煮(じぶに)が実に美味しかった。
うどん屋を出て、子供を抱いたまま金沢城の石川門へ向けズンズン歩く。歩くか、タクシーに乗るか微妙な距離であったが、やはり歩いて金沢を感じたくて歩くことにしたのだが、炎天下ではかなりきつく、石川門に着いた頃にはみんなバテバテ…。おとなしくタクシーにしておけば良かった(笑)。石川門を見た後、兼六園に入ったが、改めてその広さに驚いた。
元々は金沢城の外庭であった兼六園。5代藩主の前田綱紀(つなのり)が造った蓮池庭(れんちてい)が兼六園の始まりと言われているそうだ。まあ贅沢な庭である。水戸の「偕楽園」、岡山の「後楽園」と並んで日本三名園とされているが、日本三景同様その根拠は分からないのであった。(笑)
それにしても暑い…。息子は寒さには強いが暑さにはやや弱いのでソフトクリームを食べて暑さをわずかな時間忘れてもらうことに…。そして、兼六園からタクシーでひがし茶屋へ向かった。金沢お決まりの観光コース。暑さでたまらず乗ったタクシーの運転手が、随分とおしゃべりなおとうさんだった。いわゆる観光コースを連れて回りたいための怒涛のセールストーク攻撃!(笑)
「金沢は、戦災に遭っていない街ですから伝統的な建物が今でも多く残っているんですよ。緑も多いですし、いい街でしょ」
「ホントいい街ですね〜。ところで、前田家の子孫はまだいらっしゃるのですか?」と、話の腰を折り、突然思ったことをそのまま口にした僕。
「いえ。前田家の子孫は今は東京に住んでいるですよ」
「え!東京なんですか?」
「はい、年に何回かは金沢に帰ってきているみたいですがね」
それ、ホントの話ですか…。と言いそうになったがやめておいた。(笑)そしてその後は、おとうさんの独演となった。
二度目のひがし茶屋街。茶屋街はそれぞれの建物が外からは分かりにくいが、様々な業種の店舗などになっており、いざ入ってみると各店なかなかの充実ぶりで楽しめる。1820年に周辺にあった茶屋を集め商人や武家が遊芸を楽しむ社交場として華やいだ街。
茶房「素心-SOSHIN」で美味しいアイスを頂きながら快適な時間を味わった後、箸屋や風鈴屋などを見て回った。風鈴屋の軒先に吊り下げられた風鈴の音色が涼しく鳴り響き、心地よかった。「今日香」という箸屋で自分用に洒落たデザインの箸を買い求めた。店を出ると突然視界に映った着物姿の女性がゆっくりと路地に入っていくのが見えた。うつくしい…。
美しい曲線を描く浅野川大橋を渡り、花街として賑わった主計町(かずえまち)をブラブラ探索した後、ホテルへ戻った。主計町は茶屋や芸妓の置屋が集まったかつての花街。古き良き日本の伝統的な街並みにどこか懐かしさを感じる。
まだ夕方も早い時間のせいかホテルの天然温泉に人影はなかった。一人でどっぷり湯に浸かり、手ですくった湯に顔をうずめた。とろみがあり少し赤い湯であった。そしてあれほど炎天下を歩き汗を大量にかいたというのにサウナに入りまた汗をかいた。ビールをさらに美味しく飲むために…。(笑)
風呂上り、猛烈にサッパリした後、グビグビ飲んだビールは当然最高だった。それにしても今日の金沢は暑かった…。既に寝ている息子の横で少しだけ昼寝をし、家族みんなでホテルの洋食のコース料理を楽しんだ。
しかし…。どうしても海鮮丼をあきらめきれない僕は、ネットでかなり評判が良く、行列もできるという「井ノ弥」にひとり出かけた。昼は噂どおり行列ができていたが、夜覗くと一席だけ、まるで僕のために空けて待ってくれていたかのようにポツンと空いていた。嬉しいじゃないですか…。
店内を見回すとカウンターも畳の小上がりもお客さんでびっちり。席に座り、然程迷うことなく、ちらし近江町と名付けられた海鮮丼(1100円)を注文した。待ちに待った海鮮丼は、これでもかと沢山の魚がドサドサのっていた。ひゃー。魚好きにはたまらない絵。どのネタも、ものすごく美味しそう。醤油ではなく(醤油はなかったと思う)特性のタレをまんべんなくかけペロリペロリと食べていく。1,100円でこれだけたくさんの魚を食べられるのは魚好きにはたまらなく幸せなこと。近所にあれば定期的に通いたくなる店かな。まあ、それにしても食べ過ぎた。
***
翌朝、朝食後にかつて前田家に仕えた武士達の屋敷が残る武家屋敷をぶらり。金沢はこの日も真夏日。石畳の照り返しを最も近い高さで受ける2歳の息子にはかなりキツイ…。無理をせず早目に金沢駅へ向かうことにした。金沢駅まで送ってくれたタクシーの運転手さんが
「金沢は秋がおすすめですよ」
と、夏に来ている僕達にわざわざ大きな声で教えてくれた。
そ、そうでしたか…。(笑)
(06年7月:旅々旅人) |