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「喜多方ラーメン食べに行こっ!」
ほぼ満席だった磐越(ばんえつ)西線だが、JR会津若松駅に着くと、ほとんどの乗客が降りていった。僕が座っている先頭車両には、二人組の50代くらいの女性と70歳くらいのおばあちゃんが一人残った。突然訪れたやわらかく静かな空間。こーゆう空間こそ旅気分をより満喫できるので嬉しい。9時55分になると、終点の喜多方駅へ向け電車が再び走り始めた。
3両編成の快速電車は、どこか急ぎ足。稲が20センチほどに伸びた黄緑色の田園風景をビュンビュン駆け抜けていく。唯一の途中の停車駅「塩川駅」を出ると、グルグルお腹が鳴りだした…。朝食を抜いてきたため、お腹が騒いでいる。わずか15分、電車はあっけなく喜多方駅に着いた。
駅舎に蔵とラーメンのまち「喜多方」と大きく書かれてある。喜多方は人口の割にラーメン店が極端に多い町(対比率全国1位)。そして、喜多方ラーメン自体が全国区のブランドであり有名なのだが、蔵のまちとしてよく知られた場所であることも知った。約2600棟の蔵があり、今でも生活の場として、また店舗として使われている蔵が多数あるとのこと。
喜多方は、生糸、清酒、みそ、醤油などの醸造工業や漆器、桐下駄、家具木工品などの製品造りも盛んで、とくに漆器は、会津漆器の80%を占める生産地であることを帰ってから知った。(郷土資料事典より)しかし、実際に駅に着くまではラーメンのことしか頭になかった…。(笑)
駅を出ると、目の前に茶褐色の美しい馬の姿があった。初めての町で改札の駅員さんの次に出会ったのが人ではなく馬というのがなんだかいい。近づいてみると、馬の後ろに蔵の形をした二階建ての乗り物がつながっており、どうやらこれに乗り観光ができるようだ。その名も蔵馬車。頑張れば20人ほど乗れそうだがそこまで乗られるとさすがに馬もやってらんないだろう…。
蔵の町並みが自然に残るふれあい通り(中央通り)を歩く。どこからか水が流れる音。うん…?よく見ると、なんと真下を小川が流れていた。等間隔で鉄の棒を繋げた小さな蓋がつけられており。隙間から下を流れる川が見え、なんだか涼しげ。後で喜多方駅内にある観光案内所のおかあさんに聞くと、この川に冬に積もる雪を投げ込むのだそうな。
「11月後半から3月にかけ、当たり前のように膝ぐらいまでの大雪が降るのよ」
と、おかあさん。そっか…、ここは東北福島県。そして山に囲まれた盆地だ。冬は雪が当たり前なんだ。この日は7月。まるで冬のことなど頭になかった。
さてさて、グルグルと鳴りやまぬお腹を満たさねば…。向かったのは、小さな路地に入った所にある老舗の「あべ食堂」。喜多方ラーメンと言えど、どこで食べるかは当然大事。アタリもあれば残念ながらハズレもあるだろう…。であるためネットで軽く下調べをし、ここ!と決めていた。こじんまりとしており昔の食堂といった感じのあべ食堂が見えてきた。そして同時に雨がポツポツ降ってきた…。
紺色の暖簾をくぐると、「いらっしゃいませ〜!」と、フロアや厨房から4人ぐらいのおかあさん達の声に一人迎えられた。そうそう、客はなんと僕一人。あれっ…、行列ができるお店と聞いていたが…。まぁいっか。
「中華そば」「チャーシューメン」と、麺類では二種類あったが、お腹がどうしようもなく空いていたので、ガツンと「チャーシューメン」を食うことにした。注文の時にそれに対してなにやらおかあさんが土地の言葉で言っていたが、ぼんやり聞いていたのでさっぱり理解できなかった…。開けっ放しの入り口のドアの向こうに勢いを増した横殴りの雨が見える。折りたたみの傘を常備しているので、問題はないと言えばないのだが、旅気分に影響が出るためできれば上がってほしい…。
間もなくして目の前にどーんとチャーシューメンがその大胆な姿を露わにした。麺が見えないじゃん…。これでもか!といった感じでチャーシューがトロトロに円を描いている。チャーシューを食べない限り麺に到達できないのでやや薄目のチャーシューからペロリとやるが、これが旨い…。姿を確認できた、中太の平縮れ麺。やわらかくていい感じ。レンゲがないので、器を口につけてズルズルスープをやるのだが、シンプルながら深みのある味わいで旨い。豚骨と魚の醤油味。さいこー。
抜群に自分好みの味だった。こんな店が近所にあったら大変だ。(笑)
「なんで朝(7時半)から営業してるんですか」
と聞くと、
「閉めるのが早いから(6時)」
と、シンプルな答え。
喜多方の人は朝からラーメンを食べる人が多いのも理由の一つ。「朝ラー」なんて言葉を作り流行らそうとしているらしい…。このあべ食堂以外にも全部で約120店。それぞれに違う味なので、相当楽しめそうでだ。
店を出ると、なんと雨は上がっていた。やっぱり僕は晴れ男。都合よくそう思っている。(笑)喜多方ラーメンのうまさに怪しくニヤニヤしながら、適当にぶらぶら歩く。あぁぁぁ…ホント旨かったなぁ…。
田付川を渡った先で畳屋さんを発見。おばあちゃんが畳の仕上げの作業をしているのが通りから見えた。畳の香りがたまらなくいい。その先に出くわしたのがおたづき蔵通りという蔵の町並みが続く通りであった。古風な蔵の町並みがなんとも美しい。酒蔵、染器蔵、座敷蔵、味噌・醤油蔵などが軒を連ねていた。
味噌・醤油蔵の並び「豆○」というお店で、地酒の「蔵」をゆっくり楽しんだ。地元の風土を感じながら飲む酒は格別だ。ふとカウンターを覗く。
「それ何ですか?」
「これは田楽ですよ」
そう言いながらおかみさんが丁寧に田楽を焼いていた。ほろ酔い加減でお店から町並みをぼんやり眺めていると、かっぱ、かっぱと音を立てながら蔵馬車がゆっくり歩いていくのが見えた。駅前で見かけたあの美しい馬だった。
(06年7月:旅々旅人) |
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