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車の窓を、雨に濡れた北海道の風景が寂しげに流れていく。洞爺湖近くのレークヒルファームを後にして間もなく降りだした雨は、徐々に激しさを増してきた。やだねー、旅先の雨は…。景色も全く違うものになるもんなぁ…。レンタカーの後ろの席に座る妻と二歳の息子が寄り添って寝ている姿がフロントミラーに映っている。
「あ〜。早く登別温泉の湯につかりたい…」
1時間程走ると、道央自動車道登別東ICにデカデカと立つ恐ろしくヒゲの濃い山男のような赤鬼の姿が見えた。どうやら登別の地獄谷から連想したキャラクターなようで登別温泉のシンボルでもあるらしい。登別駅近くのガソリンスタンドでガソリンを満タンにし、車を返却した。登別もまた雨だ。
宿の送迎があるものだと思っていたが、電話をするとなぜかやっていなかった。ガビーン…。それを事前に知っておけばレンタカーを明日まで借りてたのに…。また借り直すのも面倒だし、バスを待つのも面倒なので、駅前にとまっていたタクシーで登別温泉へ向かった。約15分程。もう一度さっき見た赤鬼の前を通り、登別温泉街へ着くと、曇りだけどいつの間にか雨は上がっていた。
「パークホテル雅亭」にチェックインをし、登別温泉の顔でもあり、心臓でもある源泉の「地獄谷」へぶらぶら歩く。プンプンと温泉街全体に硫黄の香りがあふれている。いい香り…。でも昔はダメだったなあ…この匂い。
5分程歩いた場所にも大きな赤鬼と青鬼の銅像があり、その周りには8月なのにやわらかな青色をした紫陽花がしっとりと咲いていた。8月の登別は紫陽花がきれいな季節のようだ。そしてゆるやかな坂道を少し上がった所に、赤茶けた岩肌に囲まれ、いくつもの白い湯煙がモクモクと吹きだしている地獄谷がドカンとあった。なるほど。地獄谷と呼ぶのも分かる。
地獄谷は、約30万年前の爆裂火口跡の源泉で、11種類の泉源があり1日に約1万トンもの湯が湧き出ているらしい。各温泉宿からも近く、浴衣姿の人達の姿もちらほら。登別駅で息子を可愛がってくれたロシア人のおとうさん達もソフトクリーム片手に浴衣姿でのんびりしている。地獄谷に沿って伸びる遊歩道から大沼湯、大正地獄、天然の足湯などへも行けるらしいが、子供連れではちと苦しく、そのまま温泉街へ向かった。
極楽通りと呼ばれる登別温泉のメインストリートには、みやげ屋をはじめ、居酒屋、ラーメン屋、寿司屋、そば屋などが軒を連ねる。パチンコ屋まであったが、温泉街まで来てパチンコをする人の気分は分からない…。(笑)激しく音をたて、走ってきたのは二人のライダー。ヘルメットを取りバイクを降り、「日帰り入浴どうぞ」と書いてある第一滝本本館へスタコラ入っていった。ツーリングの途中に寄ったらしい。
登別温泉は、1858年に滝本金蔵が皮膚病を患っていた妻を、登別で湯治させたところなんと全快し、それ以来金蔵は湯守となり私財を投じて登別から温泉までの道を作り、宿を増改築して温泉場の基礎をつくったらしい。(郷土資料事典より)その宿が現在の第一滝本本館でツーリング中のライダー達が入っていったところ。
そろそろ温泉に入るとしよう。宿に戻り、子供を内風呂へ入れ部屋の窓から外を見るとなんと大雨が降っていた。今日はついている。宿の温泉は、地下1階が脱衣所で地下2階が風呂場になっている。階段で地下2階へ降りていくと、硫黄の香りと共に、雰囲気のあるいくつかの風呂が現れた。すごい…。まずは露天風呂へ。緑に囲まれた露天風呂に浸かると雨の音が激しく聞こえてきた。お湯は乳白色でなめらかな肌触り。
外は大雨だが、木の屋根がついているので問題がない。滝のような大きな雨音を聞きながら入る露天風呂もなかなか楽しい。その後、5種類の源泉の風呂をそれぞれ楽しんだ。このホテルは、ネットで調べると温泉がかなり評判が良かったのだが、その評判どおり満足。
風呂上りに自動販売機で缶ビールを買い部屋に戻り、さらに激しさを増した雨の登別の温泉郷を見ながら飲んだ。旨い…。妻が風呂へ行っている間、畳の部屋でゴロゴロと子供とわけのわからぬ時間をダラリと過ごした。今夜のご飯は宿のバイキング。一泊二食付きで一人8,500円のプランのため、料理は然程期待していなかったが、これがなかなか旨く、嬉しかった。海の幸、ジンギスカン、アスパラ、天ぷら、ラーメン、ズワイガニなどがズラズラ並ぶ。
我が家では滅多に口にすることのないズワイガニをハサミでパキパキ割りながらガサゴソ食べるのに制限がないのがスゴイ。と言っても、2皿で十分満足。初めて?と思い食べたジンギスカンは、そう遠くない過去のどこかで似たようなものを食べたように感じた。しばらくして思い出したのは、西表島で食べた猪だった…。食感が似ており、プリプリして旨かった。
たらふく食べた後、また温泉に入った。ご飯どきのため、ひとりでゆるゆる、どっぷりと登別の湯を楽しんだ。外は当然のようにジャブジャブと大量の雨がふっていた。風呂上りにまたビールを飲み、他にすることもないので、そのままフカフカの布団に顔をうずめて寝た。
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雨の音で目を覚ました。寝起きのまま温泉へ直行。ほとんど人のいない朝の温泉はまさに天国。夜よりも朝の温泉の方が好きだなぁ。部屋に戻ると家族も起きていたので少しして食堂へ降りた。値段が値段なので夕食同様にまるで期待していなかったが、朝食もまた美味しかった。宿の朝食が美味しいと、それだけでなんだかシアワセになる。滅多にないことなので…。
このホテルは送迎もなかったが部屋への案内もない。つまりそういうところを省いてコストパフォーマンスや温泉、食事に力を入れているようだ。最終的にはとてもこのホテルが好きになった。温泉があり、一泊二食がついて一人8,500円はホントに安いと思う。これまでで最も満足度の高いホテルかもしれない。
食堂の窓からは早くもバスに乗り込む大勢のツアー客の姿が見える。時計の針はまだ8時。なんだかあわただしい…。こちらはツアーじゃないのでのんびりと自由に朝を過ごした。宿を出る頃には、雨もサラリと上がっていた。
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登別駅から新千歳空港へ向かう室蘭本線の窓から、カラフルな色をした家が延々と続く風景が楽しかった。オレンジの壁に緑の屋根、ピンクの壁にショッキングピンクの屋根、水色の壁にピンクの屋根。それはまるで競うかのように。実際競ってたりして…。(笑)
(06年8月:旅々旅人) |
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