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下関にやって来た。目的は旬を迎えたフク(下関ではフグをフクと呼ぶ)を食べるため。と言っても1万円を越えるような高額なものではなく安く美味しいフクが狙い。大体ねー、フグという料理は高過ぎると思いませんかー。(笑)
12月前半。JRの下関駅へ着いた時には既に夜の8時を回っていた。そして肌を突き刺すような寒さに迎えられた。寒い…。人口約30万人が住む街。駅前は地図で見ると繁華街の印象が強かったが意外とネオンが寂しい…。ホテルへチェックインする前にぶらり、その途中にあるくじら料理専門の小料理屋「下関くじら館」に寄った。
下関は、圧倒的に「フク」で有名だが、実はかつてはクジラ漁も盛んであったらしい。カウンター席に座り、店のおかあさんにお薦めを聞くと、迷わず
「クジラの竜田揚げ」
と返ってきた。竜田揚げ?小学生の時に度々給食で出てきたあの硬い肉を思いだし、少し躊躇したが聞いた以上悪く思い、それにした。寒いけど、まずは生ビールを軽く流し込みホッと落ち着く。でも、やっぱさむい…。
寒さに震えながら、揚げたての竜田揚げを特性のタレに漬けかぶりつく。うまい!アツアツでやわらかくてジューシー。じゅわーと口の中で甘味が広がる感じがたまらない…。昔、給食で食べたものとは根本的に違っていた。(笑)
生ビールの後にふくのひれ酒をやりながら今度はシロナガスクジラの次に大きいナガスクジラの刺し身(1300円)をペロリ。大きなクジラからは想像もできない小さな肉だったが、ほんのり甘く噛み応えがあり一口一口しっかりと味わって食べた。お店のおかあさんとの会話も楽しくなんともいい時間だった。ご馳走様。
小一時間で切り上げ外に出るとズッコーンと、何やらキラキラと異彩な輝きを放つバブリーなタワーが目に飛び込んできた。おお!なんだなんだあれは!行ってみると海峡ゆめタワーという高さ143メートルの展望台。600円もしたがせっかくなので上がってみると、二組の恋人達が愛(多分)を語り合っていた…。まあ、そりゃそうですよね。ここはそうゆうとこですよね。失礼致しました…。展望台からは関門橋はもちろん、下関、そして門司(九州福岡)の夜の街並みがぐるりと一望できた。さて、帰って寝よ。
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翌朝6時30分頃に一般客も買い物ができる唐戸(からと)市場へまだ真っ暗な中を歩いて行った。フク専門の市場は彦島にある南風泊(はえどまり)市場だが、そこは一般客は入れないと聞いた。しかし、唐戸市場にもフクは入ってきており、他の魚と一緒にその姿を見ることができる。まだ時間が早いのか、いや既に遅いのか…もう市場内は人も少なく、整理整頓されていた。しかし、よく見ると屋台のような模擬店の準備を進めているお店がいくつもあったので、観光客向けの市場はどうやらこれからな感じがした。
朝ごはんに訪れたのは、2階にある食堂。なんとフク刺し定食が1100円でメニューに並んでいたので、それにした。随分と安く感じたが…冷静に考えると魚の定食は高くてもそれくらいであろうとも思った。両隣の方々(2人組)は偶然にも同じハマチ定食をそれぞれ食べており
「うまいね〜!これ!」(市場で働く男性2人組の一人)
「美味しいですわね〜!」(観光客の年配のご夫婦の奥さん)
などと店員さんに話しかけている。いやー、期待できるぞこれは。
そして目の前にフク刺し定食1人前が現れた。どれどれと、アツアツの味噌汁をズルズルやった後、皮とネギをフクに載せポン酢につけて食べてみる。うーん…。たしかにフクらしいが…、味といい食感といい…。まあ1100円だからと、自分を慰めるしかなかったが、一緒についていたフクをはじめ色々な魚のアラを混ぜた料理が濃厚な風味で美味しかった。
しかし…、ハマチを食べときゃよかった。
しばらくその想いは続くのであった…。(笑)
唐戸市場を後にして向かったのは、なんと関門(かんもん)海峡を歩いて渡れるという関門トンネル。あいにくの小雨。さらに強い風が吹く天候だが、まだ早い時間のためバスは走っていない…。結局30分近くも歩きやっと入口を見つけた。エレベーターでスーッと地下55.4メートルの地点まで降りる。そしてドアが開くと衝撃の光景が…。何十人もの人達がものすごいスピードで走っているのだ。
狭くて細いトンネルの中をただ黙々とストイックに往復を繰り返している。これはこれは…。そんなマゾめいた世界をゆっくり九州へ向かって歩いていく。全長780メートル。途中山口県と福岡県の県境もある。歩くこと約15分。福岡県側の出口へ着いた。いやーなんだか嬉しい。関門海峡を歩いて渡れるなんて。
少し福岡側でブラブラした後、またトンネルを歩いて帰った。当然何人ものランナーと一緒に。僕も昔、マラソンをやっていたので分かるが、ここのランナーはかなりレベルが高い。そしておばちゃんもおっちゃんも恐ろしく速い…。健康のためとかそんなものじゃなく、レースに向けた勝負のための走りをしている。いやはや、すごい光景であった。
次は関門海峡を上から見られる火の山公園山頂にある展望ヘ行こうと、エレベーターで上がった所にある守衛室のおとうさんに歩いて行けるかどうか聞いてみると、
「あそこは歩いて行く人も多いよ!」
とサラリと言ったので、歩いて行くことにした。
まだバスが走る時間ではないこともあり…。高さわずか268メートル。それほど大変ではないだろうと思っていたが、ジグザクの山道は笑っちゃうくらい大変だった。(笑)時間は約35分だったが、着いた頃にはもうヘトヘト…。喉はカラカラ…。しかしなんとも爽快な達成感に包まれた。
そんな苦労もあり展望台から見た関門海峡の美しさは思わず声をあげるほど素晴らしく感動した。
「おぉぉぉぉぉ!いいじゃん!」
いつの間にか小雨も上がっており朝陽がやわらかく海を照らす絶景が静かに広がっていた。素晴らしい!!!やー歩いて登った甲斐があるわぁ、これは。あたたかい缶コーヒーを買ってしばらくぼんやり眺めた。ふぅー。
展望台そばのバス停に入って来たバスに乗り、唐戸市場へ戻ることにした。そろそろ市場も再開しているだろう。20分程で市場前に着くと、市場の方から両手に買い物袋を抱えた買い物客がワンサカ歩いてくる。市場は沢山の観光客でごったがえしていた。
屋台のようなお店が両サイドにズラーと並び、その間の通路に置かれたテーブルでフクやら寿司やらを大勢の人達が食べている。せっかくなので小フクの唐揚げ(2匹500円)を食べてみる。塩味が効いて美味しいのだが、硬くて冷たい…。(笑)
ずっと店頭に出しっぱなしだったのだろう…。まあしかし市場の食事というのは値段も味も意外に観光客向けなので、こうゆうことはよくあること。(笑)しかし、せっかく下関へ来たのに、まだ美味しいフクを食べていない事実に気づかされた。こりゃいかん。
そこで、前もって調べておいた唐戸市場のすぐ側にあるフク専門食堂の河久(かわく)へ寄った。お店のご主人自ら穴場と言ってたが、(笑)既にいくつかの雑誌で見かけるお店だ。昼前の11時。ひとりカウンター席に座り、おすすめメニューで恐ろしく安いフク刺しぶっかけ丼(780円)とビールを注文。するとご主人、
「ビールに合うつまみがありますよ」
と、フクの串フライ(200円)を勧めてくれた。もちろん頂くことに。
目の前の厨房でカラカラとフライを揚げる音が聞こえてくる。そして揚げたてをガブリといくが、やわらかくてホクホクうまい。ビールがすすむ。間もなくして、
「フクは、ポン酢で味つけしてますから」
と、フク丼が現れた。アツアツのごはんの上に盛られているのは、天然のマフク。その上に天然トラフクの皮とネギ。一口食ってみる。おぉぉ!うまい!!さすがにトラフクの刺し身はこの値段では厳しいと言っていたが、マフクでも十分に歯ごたえがあって、奥深い味わいで満足した。
「美味しいですね〜」
と、ご主人に言うと、ニコッと笑って、
「美味しいでしょう〜」
と返ってきた。(笑)
前日同様、この日の下関も、恐ろしく寒い。前日までの東京が秋のようにずっと暖かかったので一層寒く感じる。このままお店を出てまた寒い中を歩くのがひどく辛く思え、メニューにあるフク汁(500円)であったまることにした。さっぱりした味わい。これはあったまるわぁぁ。白味噌ベースで味噌汁のような感じだ。汁の中にゴロゴロ入ったフクの骨のまわりにあるアラ肉をしゃぶりながらハフハフ味わった。それにしても朝からフクづくし。フクの町、下関ならではの楽しみ方である。
身体もあったまり、次は唐戸桟橋から出ている観光船で福岡の門司(もじ)へ行こうと出発直前の船に乗り込んだ。(片道390円)わずか5分。九州と本州は近いのだ。門司は、明治時代に海外との貿易の拠点として賑わった港で、西洋風の建物が多く連なり、まるでテーマパークのようで見ていて楽しい。
しかし…。やはり寒い……。
わずかな時間だがヒョウが降ったほど…。想定外の真冬の寒さに耐えられない格好のため、滞在わずか10分で、唐戸桟橋へ戻る船に逃げるように乗り込んだ。ひゃーさむい…。凍りそう…。
風呂!風呂!こうなったら風呂に入ろう!
寒さから逃げるように風呂を探したのは初めて。それくらい寒かった。向かったのは、関門橋を一望できる露天風呂がある「海峡ビューしものせき」。1,050円で日帰り入浴もできるのだ。大浴場へ入ると、大きな窓の向こうに関門橋の姿が見える。何度見てもいいなぁ。そして大きな湯船に身体をうずめる。
あぁぁぁぁぁ…。あたたかい…。生き返る……。
温泉ではないが薬石光明石という石を使っているらしくその感触がなんとも気持ちがいい。ちょっと熱めの湯も自分好み。ポッカポカに温まり、湯上りのビールを飲みながら窓の外に映る冷たい下関の風景をぼんやり眺めた。
(06年12月:旅々旅人) |
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