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会いに行くとなかなか会えないのが富士山。
飛行機や新幹線からは自然に見られるイメージがあるが、わざわざ会いに出かけた過去2回(6月・11月)はいずれもダメだった。我が家だけの不運であろかと思い、何人か知人にも聞いてみたが皆同じ。それからというものネットのライブカメラで度々覗いてみたが意外とちゃんと見られる日は少ないことが分かった。
特に空気が澄んでいる冬以外は。そしてその冬でさえいつでも美しく見られるというわけではない。富士山はきれいに見えるのを確認してから会いに行くべき山なのだ。
「明日さぁ、ネットで富士山がきれいに見えたら河口湖へ行こうよ」
「うん。行こ行こ!」
正月の1月3日に妻と約束をした。1月4日だから帰りの上りは帰省ラッシュで激混みだろうが行きの下りは空いてるだろう。当然のようにそう思った。
翌朝6時30分。液晶モニタに朝焼けに染まる美しい富士山の姿が映し出されていた。
「よーし行こう!!!」
3歳の息子を起こし7時30分頃東京の北区にある家を慌てて飛び出した。河口湖までは片道110キロくらいあるのでセルフのガソリンスタンドでガソリンを満タンにしたのだがスロットマシンになっているらしくなんと絵柄が三つ揃い1キロ2円引きになった。ラッキー!これにはかなり喜んだが計算するとわずか40円程しか得をしなかったことに気が付いた。(笑)
さすがに1月の4日。環七も比較的空いている。約25分で永福入口から首都高速に入った。
「あっ!富士山!」
妻の声が聞こえたので前方を見るとそこには真っ白な雪をかぶった富士山の姿がもう見えていた。早くもこの時点で二人して感動するのであった。
後で知ったのだが正月は工場などが稼動しないため排出物が少ないのと都心の車の量も減り排気ガスが減るので、空気が最も澄むのだそうな。だから東京からでもきれいに富士山が見えるらしい。なるほど。首都高速から中央フリーウェイに入っても車の量は少なく思惑通りスイスイと進んだ。石川PAにあるドトールでお気に入りのジャーマンドックとホットコーヒーを買い再びアクセルを踏む。
富士山は時々視界から消えるが現れる度にその姿は大きくなり美しさと迫力が増すのであった。家を出て約2時間程で河口湖ICを抜けた。近い…。周辺の気温は5℃と表示されており道端のあちこちに小さな雪の山が見える。河口湖ICを抜け約20分で河口湖畔の大石公園に到着した。車を降りると陽射しが真夏のように強烈でダッフルコートがいらないくらいの陽気であった。
そしてそしてデカデカと聳える富士山とついに真正面から対面できた。
「うつくしい……」
その美しさと大パノラマの迫力は見事なまでに素晴らしかった。飛行機や新幹線から見える富士山とはやはり違う。空気も含めここまで来ないと伝わらないものであった。
『富士山の麓で雪をかぶった富士山を見る』という人生の中で一度は体験したい夢がここに実現した。息子は全く興味を示さなかったが妻は大いに感動していた。
「ここまできれいとは思わなかった」と…。
河口湖の水際で三歳の息子と遊ぶ。しかし息子はあっという間に飽きてしまい、
「遊ぶところは?遊ぶところは?」
と連呼し始めたので、後で河口湖ICのそばの富士急ハイランド内にあるトーマスランドへまた寄ることにした。1ヶ月前に行ったばかりだが。
別の角度からも富士山を見たくなり大石公園から車で30分程の『紅葉台展望台』へ向かったがあともう一歩のところで見事に舗装されていない凸凹道に突入した。あまりにもひどい道なので嫌だなぁと思いながらもユッサユッサとパリダカのように登っていくとどうやら整備中であるらしく「通行はご遠慮下さい」と書かれた看板があった。
ここまで来てそれはないぜよと思いはしたが家族も乗っているので渋々と逆向きで下り始めた。しかししかし…後から来たパジェロは臆することなくガタガタと坂道を駆け上がっていった。すごいやら何やら。すれ違う時にニヤリと運転手が笑うのが見えた…。なんだか少し敗北感を感じた。まあいっか。
再び河口湖に戻ると11時30分頃でちょうど昼ごはんにいい時間。以前から一度食べたかった山梨名物『ほうとう』を食べに河口湖の湖畔にある『ほうとう不動』という店に入った。
観光客がどっと流れ込んできても余裕でさばけそうな広い店内。メインメニューはほうとう(1,050円)のみ。それ程混んではいなかったが注文してからもなかなか出てこない。痺れを切らして厨房を覗くと石釜がズラリと並べられ丁寧に作っているおとうさんの姿が見えた。話しかけると怒られそうなのでやめておいた。
20分以上待ったかな…。現れたほうとうは鍋らしくなくおつゆは少なめ。そのわずかなおつゆからまずは頂く。うまい…。これはうまい。あっさりしているが味噌とかぼちゃの風味がまろやかに伝わってくる。じっくりと煮込まれた白菜などの山菜の旨みが絶妙に染み込んでいる。それぞれの野菜も新鮮で美味しい。小麦粉を使った手打ち麺は固めでゴワゴワムニュムニュしており食べ応えがある。
大分や熊本の内陸地域のだんご汁(だご汁)さながらまさに山に囲まれた地方の郷土料理。全体にかなり好きな料理。戦国武将の武田信玄が戦時食として作らせたのが始まりとも言われているそうな。
富士山とほうとうですっかり満足した僕と妻。しかし3歳の息子だけはまるで満足している様子はない。そりゃまだ富士山とほうとうの良さは分かるまい。店を出てそのままトーマスランド(富士急ハイランド)へ向かった。車で20分程だ。しかし僕はというと息子をしばし妻に預け富士急ハイランドの横にあるふじやま温泉でゆるゆるさせてもらうことにした。
カウンターで金額を聞いて驚いた。入浴料金はタオルなどもつくがなんと1,500円。やめようかと思ったが富士山を見ながら温泉につかれるチャンスはそうないだろうと思って泣く泣く1,500円を差し出した。(土日は2,000円)温泉に入るのに使ったお金では過去最高。
新しい施設らしく館内はえらく清潔で快適。壁から天井まで木のぬくもりをダイレクトに感じる大きな内風呂を抜け露天風呂へ直行。内風呂と違いわりと小さめの露天風呂が静かにタプタプしていた。ちょっと熱めの湯に身体を沈める。やーー、いいわこれは。そして富士山のある方を望む…。
あれっ…………………………。
なんと壁で全く見えないのでした。(笑)
お湯は無色透明で炭酸水素塩泉と書かれてあった。天気のいい真昼間にこうして露天風呂につかれるのは当然素晴らしかった。その後内風呂に戻りゆるゆるだらだらとやわらかな湯に身を任せるのであった。富士急ハイランドのチケットを見せると1,200円になることを富士急ハイランドから帰る時に気づいた。くそー!(笑)
トーマスランドへ遅れて行くと息子はキャーキャー言いながらはしゃいでいた。4つのアトラクションを楽しみ少し早めに帰ることにした。帰りは帰省ラッシュに当然巻き込まれると思っていたからだ。
今回の旅の最大の目的の富士山は午前10時台に着いたばかりがもっとも自然で美しかった。午後になり時間が経つにつれまるでカチカチになったアイスクリームのようにテカテカと異様な輝きを放っていった。残念ながら富士急ハイランドから見える富士山はもう美しい対象ではなかった…。
午後3時前。再び河口湖ICから高速に流れ込み東京へ向けアクセルを強く踏み続けた。思惑に反し帰りも恐ろしく空いており1時間30分程で東京の都心へ辿り着いた。
どうやら富士山に会いに行くのは正月がベストのようだ。しかも午前中か夕暮れ時。美しい富士山に会えてすこぶる嬉しかった。正月早々、猛烈な達成感と満足感に包まれた。
(08年1月:旅々旅人) |
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