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萩・城下町
志高く…。

毛利輝元関ヶ原の戦いで、藩主の毛利輝元が名ばかりの西軍(敗者側)の総大将(実際は石田三成が主導)として擁立されたが為に約120万石の所領からわずか約37万石に大減封された毛利家。関ヶ原の戦い以後、毛利家の拠点となったのが小さな漁村の。標高約143mの指月山(しづきやま)の麓、海に面して建てられた萩城が、毛利家の居城となった。

今でいう、いわゆる負け組みに転落した長州藩毛利家は、それから約270年後に主に薩摩藩、土佐藩と共に討幕し大逆転を果たしたとも言える。長州ではこの時期、多くの若き志士が活躍した。吉田松陰、高杉晋作、木戸孝允、井上馨、山県有朋、伊藤博文など。並外れた才能と高い志に加え、それを実現するための行動力を備えた人材を輩出した奇跡的な町が萩。

その「萩」へ出かけた。3月初旬。春を迎えた萩へ萩石見空港(島根)から入った。萩は、日本海に面し、三方に山が見渡せ、二つの大きな川に挟まれた三角州にある。全国的なチェーン店やコンビニや看板といったものが極端に少なく、武家屋敷を始めとした多くの伝統的な建物が多く立ち並ぶ美しい町。さらに、高い建物もなく空が随分と広く感じ、気持がいい。

しろうお漁東萩駅前の「リバーサイドホテル」で借りた新品の自転車で萩を走る。大きな松本川では、春の風物詩「しろうお漁」が行われていた。4つ手網と呼ばれる四角い網を沈め、産卵のために川を遡上するしろうおの群れが網の上を通ると引き上げ、網の中央をひしゃくでたたきながら集める独特の漁。実にのんびりした風景。

最初に向かったのは松下村塾。東萩駅付近から10分弱で着く。鳥居の前でデジカメを構えると、
「そこの石碑を入れないと。松蔭の自筆なんだから」
と背中越しにタクシーの運転手のおとうさんが教えてくれた。

見ると、右肩上がりの独特の文字で「松蔭神社」と縦に掘られてあった。松下村塾の奥に松蔭神社もあるため、この石碑があるのだが、後に自分が祀られることを知らない神社の為に自筆を残す人があるだろうかと、ちょっと疑問を感じた。(笑)

長州藩が尊皇攘夷を掲げ、討幕へ走り出すのは、吉田松陰以後といわれているそうな。それまでは薩摩他、一部の人物を除く多くの藩同様に、幕府に忠実で大人しい藩であったらしい。その吉田松陰が安政の大獄で処刑(江戸にて斬首刑)されるまでのわずか二年半程の間、無料で門弟のために開いたのが、松下村塾。萩城下から随分離れた場所に静かにある。

松下村塾松下村塾は、元々松蔭の叔父にあたる玉木文之進が自宅に開いたのが始まり。幕末以降に活躍する多くの志士が学んだとされる木造瓦葺きの小さな建物がほぼ当時のまま残されている。門下生は、松蔭の妹と結婚をした久坂玄瑞を始め、僕の大好きな高杉晋作や、国家を思い決死の覚悟で活動した伊藤博文、さらに山縣有朋、前原一誠、品川弥二郎など多数。

松蔭は、わずか30歳でその短い生涯に幕を閉じる。底抜けにプラス思考で嘘がつけず、噺好きであったが為に…。松蔭が育った家である、杉家も松下村塾の隣に現存している。墓は、500m程山道を登った見晴らしのいい場所にあり、生誕地もそのすぐ近く。

伊藤博文の旧宅松蔭神社付近には、他に松蔭や乃木希典(日露戦争で活躍する軍人)の教育者でもあった玉木文之進の家や、伊藤博文の旧宅(幼少の頃から28歳で初代兵庫県知事になるまで過ごした家)や東京品川から移築された伊藤博文の別邸、そして毛利家の菩提寺「東光寺」などがあり大いに楽しめる。この辺りは、歴史的にも大変貴重な場所であり、非常に感慨深い。自分の人生や志を改めて問いかけられるような場所だ。

時計を見ると昼過ぎ。昼ご飯に立ち寄ったのは、萩生まれのうどんチェーン店「どんどん」の土原店。地元の(し)さんに教わったお店。12時半頃に、お邪魔するとなるほど地元の人たちで賑わっていた。注文したのは肉天うどん(490円)。そして萩名物のわかめむすび(2個で170円)。テーブル上のネギは入れ放題らしい。

わかめむすび柔らかめのうどんが、やや甘めのおつゆと馴染んで旨い。わかめむすびはその名の通り、干したわかめを小さく刻み、おむすびに付けたもので、わかめ漁が盛んな萩では日常食でもあるらしい。特に井上商店の”しそわかめ”がおすすめであることを(し)さんに教わり、空港で我が家の土産に買って帰ったが、妻が随分気に入ってくれた。(その後、この店の商品が東京でも普通に買えることを知った)

店を出て再び自転車にまたがり、素朴な町並みをゆっくり走る。すると、突然土塀や白壁が続く武家屋敷に突入する。かつての城下町。江戸時代初期に建てられた御用商人の豪邸「菊屋家住宅」や、明治時代には名士の宿所でもあったとされる「旧久保田家住宅」が見学できる。特に国の重要文化財でもあり約2000坪の菊屋家住宅はお見事。しかし風呂釜の大きさだけは我が家の勝ち。(笑)

高杉晋作その菊屋家住宅に近い、菊屋横丁に、あの高杉晋作の生家が現存している。幕末の頃に活躍した多くの志士の中で、土佐の坂本龍馬同様に"好き"なのが、長州の高杉晋作。長い歴史を通してみてもこの二人程魅力的な人物は、数少ない。良い面、悪い面、それぞれ捉え方はありましょうが、彼の先見の明と高い志、そしてあの並外れた行動力には深く感動を覚える。

彼が歴史の表舞台に登場するのは10年にも満たない。哀しいかな、わずか28歳にして病死(肺結核)してしまうが、長州を亡国の危機から救い、明治維新への足掛かりを築いた中心人物の一人。その生家へ足を踏み入れると、彼の奏でる陽気な三味線の音色が聴こえてきそうな気がした。自宅で三味線を手に取ることはなかったと思うが…。(笑)

木戸孝允薩摩の西郷隆盛、大久保利通共に明治維新の三傑と称される、木戸孝允(桂小五郎)の生家も徒歩で約5分程しか離れていない。その木戸孝允の生家も江戸屋横丁に現存している。萩藩医の家。病院でもあった建物は、木造瓦ぶきの二階建て(約72坪)でなかなか立派。木戸孝允ファンでなくとも大いに楽しめ、見学する価値は高い。

城下町城下町を歩いていると、夏みかんの姿が度々目に入る。白い壁の武家屋敷が続く街並みとなんとも合う。萩で生まれた夏みかん。その夏みかんで作られた夏みかんソフトクリームを出す店が何軒かあり、ひどく食べたくなったが、男一人でそれを食べるだけに店に入るのはどうにも照れくさくて、あきらめるのであった。

城下町地区からかつて上級武士が屋敷を構えた堀内地区に入る。あまり観光地化されておらず人通りも恐ろしく少ない。土壁や白壁が長く続く風景がやけに寂しく映ったが、ここまで自然の状態で尚且つ広い範囲でかつての城下町が保存されているのは萩だけではないだろうか…。そしてここでも夏みかんの黄色が青い空に映え、いい感じであった。

萩城跡堀内地区を抜けると萩城跡はすぐ。初代城主の毛利輝元公の銅像が迎えてくれ、その少し先に萩城跡が海に面し無防備に横たわっていた。天守閣はない。その模型(1/10)が東萩駅前に作られている。二の丸の石垣へ上がると、菊ヶ浜と呼ばれる砂浜が静かに広がっていた。

宿のある東萩駅方面に引き返し、松蔭神社にも近い萩本陣というホテルで温泉につかった。露天風呂をはじめいくつかの風呂釜がコの字に並んでいる。その中央に、ライトアップされた萩城のオブジェと竹が美しく輝く。快適な空間。湯は無色透明でとてもシンプル。残念ながら撮影は禁止…。

網焼きレストラン 見蘭風呂上りに地元の(し)さんと合流し、車で向かったのは萩城跡に近い「網焼きレストラン 見蘭」。見蘭牛と呼ばれる萩の名物牛の焼肉をご馳走になった。国の天然記念物で和牛のルーツとも言われている「見島牛(父)」とオランダ原産のホルスタイン種(母)を交配させて生まれた萩の牛。年間わずか12〜13頭しか食に出回らない貴重な牛でもあるらしい。(店のパンフレットより)

洗練された快適な空間の中で、よく冷えた生ビールを飲みながら網焼きで頂く。なんと幸せな時間だろう…。見蘭牛はやわらかく濃厚な旨みでとびきり美味しかった。タン塩に始まり、ハラミ(980円)、特選5点盛り(特選ヒレ、特選ロース、上ロース、中落ちカルビ、上カルビ・2人前3,500円)、特選ヒレステーキをガッツリ頂く。

肉だけでなく、この店のキムチ石焼ビビンバも絶品。週末は予約を取ることも難しいと聞いたが、この味と値段、そしてこの空間なら当然だと思うなぁ。

金太郎その店を早めに出てもう一軒。東萩駅から徒歩で約10分辺りの場所にある、萩の地産料理の店「MARU」に入った。洒落た空間がいい感じ。ここは、それぞれの料理に合わせて美しい萩焼の器に盛られて料理が出てくるのが嬉しい。萩の春ならではの食「しろうおの踊り食い」や、萩の海で獲れる金太郎と平太郎を焼いたものや、甘鯛の刺し身やウ二を頂いた。名前は忘れたが、まろやかな口当たりの萩の日本酒を冷で頂きながら。

***

旅先へ行き、"また来たい"とすぐに思うことは稀なことだが、萩はしみじみとそう思う町であった。画一化されておらず、歴史と個性がある素晴らしい町。そして、萩にいる間中、頭の中にこびりついていた言葉が「志高く」という言葉。かつての長州の志士達の志の高さと行動力には改めて感動を覚える、土佐出身、江戸在住の旅人でありました。

(09年3月:旅々旅人)

松下村塾
菊屋家住宅 わかめむすび
しろうおの踊り食い
 1:松下村塾
 2:菊屋家住宅
 3:わかめむすび
 4:しろうおの踊り食い
詳細地図
>>詳細地図(Googleマップリンク)
[アクセス]
萩・石見空港→(バス:約1時間10分)→JR東萩駅→(自転車:約10分)→松下村塾・松蔭神社→(自転車:約3分)→伊藤博文旧宅・別邸→吉田松蔭墓・生誕地→(自転車:約5分)→東光寺
JR東萩駅→(自転車:約5分)→どんどん→(自転車:約10分)→城下町(菊屋家住宅、高杉晋作生家、木戸孝允生家など)→萩城跡・菊ヶ浜→(自転車:約15分)→萩本陣
[関連サイト]
■萩市観光協会
■萩石見空港
■どんどん 土原店

■萩本陣
■網焼きレストラン 見蘭
■MARU
萩市吉田町78番地・TEL 0838-26-5060
山口方面の名物

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