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岐阜での仕事を終え、そのまま車を走らせて伊勢に入ったのは夕方の6時半。辺りは既に薄暗い。江戸時代に、全人口の約5分の1にあたる驚異的な数の人が訪れたといわれる伊勢神宮を一度でいいから肌で感じたくて伊勢に初めて足を踏み入れた。
全ての神仏に一線を越えるような特別な思いはまだもっていないが、その人なりの神にあたる崇拝的存在があることは大いに理解できる。僕にとっての英雄的存在はいるのだが、神となると難しい…。
伊勢神宮のある伊勢の名物といえば、赤福と伊勢うどん。その伊勢うどんの老舗「まめや」がまだ開いていたのでガラガラと引き戸を開けた。「いらっしゃいませ」の声と同時に「伊勢うどん、ひとつ」とまるで常連のようにさりげなく告げ席に座った。程よい時間で現れたうどんのハズのそれはありえない太さ。なんじゃこりゃ…。
葱をぶっかっけ、割り箸で麺を掴みあげるとなんと途中で切れる…。コシなんてものは鼻から無視している。讃岐の人ならコシを抜かすだろう。(笑)麺はやわやわ。そしてプツプツ切れる。おつゆというのか、つけ汁というのか下の方に濃厚な色と味わいで沈んだ、たまり醤油ベースのそれに混ざると次第に白い麺が茶色に染まり始める。濃い目でまったりとした味わい。伊勢に来たら一度は体験したい強烈な郷土料理。体験できて満足。
まめやから車で5分程のキャッスルイン伊勢という何故かフロントがおじさんばかりのユニークなホテルにチェックインをし、露天風呂に直行。露天風呂といっても温泉ではないが、檜の湯釜で雰囲気があり開放的で落ち着く。そして、この露天風呂から大パノラマで見渡せる夜景が突然の出来事だったこともあり、感動的だった。伊勢市に住む約13万5千人からのプレゼント。
伊勢の朝は早い。その理由は、伊勢神宮が朝の5時から受け入れてくれるからだ。(季節によって変動)早朝に、岡山の倉敷さながら江戸時代から昭和にかけ物資を運ぶ船の通り道であり停泊所でもあった勢田川沿いに続く河崎という蔵の町をぶらぶらと歩く。
古めかしい多くの蔵や商家が今も尚随分多く残っており見応えがあり懐かしくもあった。昨晩は、この一角にある店で軽く飲む予定だったがなんと定休日であった…。他にやることもなく子供が寝るような時間に寝た。(笑)
キャッスルイン伊勢から車に乗り込み5分も走れば伊勢神宮の外宮に着く。伊勢神宮は実は二箇所あり、内宮(ないくう)と外宮(げくう)に分かれている。車で10分程の距離。内宮の祭神が「天照大御神(あまてらすおおみかみ)」で、皇室の租神なのだそうな。対して外宮の祭神が「豊受大御神(とようけおおみかみ)」で、衣食住・産業の守り神なのだそうな…。
そして神宮式年遷宮(じんぐうしきねんせんぐう)と呼ばれ、20年に1度正殿を初め、全ての神殿を新しく作り変える祭りを持統天皇4年(690年)以来20年ごとに約1300年間もずっと続けているというのだから全くもって驚く。耐用年数や社殿の清浄さの保持、技術の伝承などが理由にあるらしい。だから全ての神殿の横にはその神殿と同じ広さのスペースがガラーンとあり、小さな木箱がポツンと置かれてある。
参拝の順序は、外宮から内宮へ参るのが正しいらしい…。ここは素直にそれに従った。朝の6時。まだほとんど人のいない外宮を歩く。料金は共に無料。境内に無数に伸びるぶっとい木のたくましさに驚く。ここまで立派なものは東京の高尾山辺りでしか見たことがない。この森林内にある一部の檜が次の(平成25年)神宮式年遷宮の木材に使われるそうな。
正宮の前で、数人が何やら熱心に参拝をしていた。その横には強面の警備員がギロリと立っておりなんだか落ち着かない…。参拝もしないで、ただジロジロあちこちを見ているだけの怪しい男がいればそりゃ見るか…。(笑)外宮正宮、土宮・風宮・多賀宮、勾玉池と周り外宮を後にした。
内宮までは車で約10分。こちらはまず宇治橋という木造の大きな橋を渡るのだがこの橋を含めここから見渡せる風景が実に美しかった。鮮やかな新緑に囲まれ、橋の下にはきれいな五十鈴川がサラサラと流れている。本当に聖域に足を踏み入れるような臨場感がヒシヒシと伝わってくる。
御手洗場(みたらし)と呼ばれる先ほどの宇治橋から見降ろせた五十鈴川で参拝前のけがれを洗い流すらしい…。ここも素直に従った(笑)川を覗くと透明度が高くきれい。大きな鯉までユラユラ。そこから正宮へ続く裏参道も実に神秘的で心が清らかになる思い。朝も早いため辺りは人が住んでいない山奥のような静寂に包まれている。
正宮、荒祭宮を見て周り内宮を後にした。振り返ると、後から宇治橋を渡り終えた一人の女性が内宮に向かって深々と頭を垂れる姿が重々しく目に映った。
あの「赤福」がある通りで知られる「おはらい町」は、内宮からすぐ。まだ8時過ぎなので多くの店が暖簾を出していないがこの通りが風情があり、どこか粋な江戸時代の匂いを感じた。その通りの真ん中辺りに伊勢名物といわれ江戸時代から続く赤福の本店があった。朝の8時過ぎだというのにここだけが参拝時間に合わせて5時から店を開けている。素晴らしい!その商売精神。
赤福を店内で食べられることを知り入った。明治10年に造られたと聞いた建物が素晴らしく情緒がある。入口で一盆注文し、畳の部屋でひとりくつろぐ。部屋からの眺めが心地いい。すぐ真下を五十鈴川が流れている。なんだか京都の鴨川沿いの先斗町を思い出す。
この雰囲気の中で食べられ、赤福3個とお茶がついて280円というのはなかなか嬉しい。伝統的な建物の中、和服姿でこまめに働く赤福の女性達の姿がとても美しく印象に残った。
やがておはらい町の通り全体が静かな眠りから覚めたかのように、掃除やら、それぞれの支度に追われている姿があちこちで見られた。町が動き始める風景というのがこんなにイキイキとしていいものなのかと新鮮な感動を覚えた。
昼にはまだ早いので辺りをぶらぶら歩いたり、五十鈴川の石場で本を読んでのんびり過ごした。昼頃に、手こね茶屋という店で三重は志摩の漁師料理「手ごね寿司」と「サザエの壷焼き」などを平らげ、伊勢を後にした。東京まで約450キロと恐ろしく長いドライブ。しかし、江戸時代はこの距離を片道15日前後もかけて歩いたわけだから、しばらく長旅に出るような楽しみと勢いだったろう。
(08年5月:旅々旅人) |
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