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「そうだ 京都、行こう」
春になりテレビからJRのお決まりのコマーシャルが流れ始めた。すると、しばらくして二歳の息子が「きょうと!きょうと!」と叫ぶようになり驚いた。京都の魅力は二歳の息子にも伝わるのかしら…。
せっかく行くなら桜がちゃんと咲いている日にしよう。ネットの桜の開花情報を毎日のようにチェック。ちゃんと晴れて祇園白川の桜が七分咲きになったのを確認し京都へ出発した。朝8時20分、東京駅発のぞみ700系。快適な椅子にもたれながら朝ごはんのサンドイッチとホットコーヒーを楽しむ。
間もなくして窓の向こうに真っ白な雪をかぶった富士山が見えた。うつくしい…。その姿は次第に大きくなっていった。京都へ着いたのは11時頃。キャリーバックを入れるコインロッカーを探すが大きめのサイズのものはひたすら空いていない…。突然の旅なので京都の宿はとってない。(とれないし…)このバックが入れられないと大変なことになる…。頼む…。そしてかなり奥まったところにやっと1つ見つけた。さすが京都どす。
京都駅から地下鉄烏丸線に乗り約5分。烏丸御池駅で降りた。
「まだ京都らしい風景に出会えないね」
京都は約10年ぶりという妻がつぶやいた。
「そうだね。まだ東京とあんまり変わらないね」
ランチに向かったのは、駅からすぐの場所にある新風館。ここの3階にTawawa(タワワ)という京野菜を使った料理の店があることを聞いたからだ。京料理はどこか高い印象がある。家族ではなおさら…。
しかしもっと手軽に美味しく京料理を食べさせてくれる店が必ずあるはずだとリサーチしこの店に辿り着いた。平日の11時30分。カジュアルなイタリアン風の店内。ランチは1000円で3種。この日は、京野菜のカレーライス、パスタ、ミートローフ。それら全てにサラダバーがついており、京野菜のサラダが食べ放題という。僕はカレー。妻がパスタをチョイス。ちなみにコーヒーor紅茶、そしてデザート付き。
この店の京野菜のサラダが素晴らしかった。八百屋さんがプロデュースした店らしく、ほうれん草、水菜、赤カブ、かぼちゃ、大根、京豆腐…。全部で約20種類だったかなぁ。全てに産地まで書かれていた。ドレッシングがいらないくらい、みずみずしくやわらかい甘味。カレーにも筍や茄子、ピーマンがゴロゴロと入っていたが、カレーよりも存在感があった。(笑)周りは女性ばかり。しかし一人で二皿は当たり前。いや、三皿…。幸せそうに山盛りの野菜と向き合っていた。妻も美味しい京野菜に大喜び。息子は京豆腐が気に入ったようだった。渋い…。
烏丸御池駅に戻り今度は地下鉄の東西線で約3分の三条京阪駅で降りた。駅を出ると目の前に鴨川が流れており気持ちいい春の風が吹き抜けていくのを感じた。川沿いには少しだが桜の姿も見える。対岸には、先斗町の情緒ある建物が軒を連ねる。いきなり京都らしい風景が一面に広がっていた。
ポカポカ陽気の中、三条大橋から四条大橋方面へ向け鴨川沿いを歩く。鴨川は、繁華街を流れる大きな川なのに水がきれいで驚いた。いつも何色だかわからない隅田川や神田川を見ている僕はそれだけで感動する。きっといろんな人が頑張ってるんだろうなぁ。
「さくら〜さくら〜」と、息子が歌うように口ずさむ。川端通りを横切る横断歩道の先に満開の桜が見えた。白川と鴨川が合流する辺りに空を覆うようにソメイヨシノが咲いている。白川沿いには紅殻(べんがら)格子や簾が印象的な茶屋が軒を連ね、その向いにはソメイヨシノや枝垂桜がまだ七分咲きだが美しく咲き続く。京都の桜は寺院や風情ある建物と織り成す感じがいい。他では見られない桜が楽しめる。
「京野菜も美味しかったし来て良かった」と妻の声。
連れて来て良かった。
白川に沿って続く石畳の通り「白川南通」を着物姿で歩く舞妓さんにバッタリ。華やかな着物に、花かんざし。おぼこを履いて歩く姿がなんともいい雰囲気。と言っても本物の舞妓さんではなく観光客…。それでもやはり着物姿の女性がとても似合う花街。桜の季節はなおさらよく似合う。
抹茶のデザートを食べに白川の巽(たつみ)橋付近にある「ぎをん小森」という甘味処の暖簾をくぐった。ガイドブックなどでも見かけた老舗。お香の匂いに迎えられ坪庭が見える座敷に座り「白玉あんみつ(黒みつ)」を注文。茶道で使われるようなやや大きめの茶わんに抹茶アイス、小豆、葛、栗、白玉などが敷き詰められている。そこに黒みつを好みでかけて食べる。黒みつが効いてとろりと濃厚な甘さを感じるが、全体的にはあっさりした風味。
店を後にし、枝垂桜で知られる円山公園へ向けぶらぶら歩く。四条通りは、平日にも関わらずものすごい人。息子を抱いたまま10分程歩くと、円山公園に着いたのだが…、花見客の陣取り合戦で地面のいたるところに青いビニールシートがびっしりと敷かれていた。公園内の通りには出店が並び沢山の人でごったがえしている。たこ焼きや焼き鳥の臭いがプンプンする。これはすごいわぁ…。桜をのんびり見るなんて気分は既にどこかへ消えていた…。
そしていよいよ円山公園の枝垂桜と対面。これはうつくしい…。しかし…なんか変…。確かに大きくて立派できれいなのだが写真で見るのと違い随分と空間がありまとまりがない…。よく見ると下の方の大きな枝が切り落とされていた。また上の方の細い枝も3本程ちょっきんと…。ありゃりゃ…。特に下の方の大きな枝がないおかげでまるで手を挙げて踊っているかのような枝垂桜であった。後日の新聞でカラスの影響と知った。円山公園はソメイヨシノや山桜など約800本の桜が楽しめる。
雑踏を避けるように円山公園を離れた。ふぅー。祇園白川とは時間の流れ方が大きく違う。京都観光は1日3箇所がベストと思っているところがあり最後に歩いても行ける距離の平安神宮へ向かった。子連れで歩くには随分距離はあったが、歩いて京都を感じたくてそうした。20分ほどで平安神宮のドデカイ大鳥居の下に着いた。子供を抱いて歩いたのでヘトヘト…。元気な息子は表参道沿いで見つけた公園にそのまま吸いこまれていった。息子は妻に任せ、ひとり応天門越しに見える平安神宮を見つめた。
鮮やかな朱色の柱と屋根の緑のコントラストが実に美しい。中学の修学旅行で来ているハズだが、明らかに初めて見る風景だった。どんなに引いてもカメラに入りきらない広大な敷地に建つ平安神宮。これは一体何なのか?大きな疑問が沸いた。
「平安神宮は平安遷都1100年を記念して、明治28年に第50代桓武天皇をご祭神として創建。平安京有終の天皇、第121代孝明天皇のご神霊が合わせ祀られている」などと、書かれておりそれほど歴史のある建物ということではなかった。
平安神宮神苑の枝垂桜も見たかったが、妻と息子を長時間見知らぬ公園で遊ばせておくのもどうかなぁと思い、あきらめた。公園に戻ると息子はいつもの通り他の子供達と一緒に遊びに夢中であった。彼は今、京都に来ていることをちゃんと分かっているのかしら…。
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家族での京都の桜旅。天気と桜の咲き具合にこだわり突然だったので泊ることはできなかったが、贅沢な時間だった。美味しい京野菜がお腹一杯食べられたことも嬉しかったが、特に、きれいな鴨川沿いの散歩とせせらぎを聞きながらの祇園白川の花見。とても京都らしい風景で、人も比較的少なくのんびりと楽しめた。円山公園の枝垂桜の今後はかなり心配…。
(07年4月:旅々旅人) |
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